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Hackoh 発酵クラフト
日本の麹を、世界の食材と出会わせたい。そのために作った仕組みの話です。

この話は、一度でも味噌を仕込んだことのある方に向けて書いています。大豆を煮て、麹に塩を混ぜて、樽に詰めて半年待った、あの手ざわりを知っている方に、たぶん面白がってもらえます。知らなくても読めますが、先に「学ぶ」を読んでいただくと、この先の面白さが何倍かになるはずです。
01 前提
大豆と麹と塩を合わせたもの——と説明されます。ただ、それは材料の名前であって、しくみの説明ではありません。言い直すと、こうなります。
大豆と、麹と、塩を合わせて、寝かせたもの。
雑菌が増えられない塩分という環境のもとで、たんぱく質を酵素で分解し、旨みや甘みや酸味といった複雑な味を引き出す、日本の発酵技術。
材料の名前が消えました。残ったのは、塩・たんぱく質・酵素・時間という四つの条件だけです。
「大豆」は、この条件のどこにも
書かれていません。

02 問い
日本にあった食材のなかで、いちばんたんぱく質が豊富だったからです。米も麦も、たんぱく質は多くありません。この島で麹が出会える相手として、大豆がいちばん条件に合っていた。つまり、出会っただけです。
大豆でなければならない理由は、しくみのどこにもありません。実際、アジアを見れば、とっくにそうなっています。
どれも同じしくみで、素材が違うだけ。私たちは、大豆に縛られる必要がありません。
03 もう一つの気づき
味噌は、複数の麹を掛け合わせることで、選択肢と地域性を広げてきました。米麹と麦麹を合わせる。豆麹を足す。産地ごとに、家ごとに配合が違う。あの豊かさは、麹を合わせることから生まれています。
合わせてきたのは、
ずっと麹の側でした。
たんぱく質のほうを合わせる挑戦は、まだほとんどされていません。できなかったのではなく、組み合わせるたびに塩と水を設計し直さなければならないので、誰も手をつけなかった。それだけのことだと思います。
04 だとしたら
たとえば、こんな組み合わせです。
生ハム×ライ麦麹
熟成した肉の旨みに、ライ麦の酸味のある香り。ヨーロッパの食卓にありそうで、まだない味。
ツナ×蕎麦麹
魚の濃い旨みに、そばの香りと軽い渋み。魚醤ともそばつゆとも違う、まだ名前のない何か。
帆立×とうもろこし麹
貝の澄んだ甘い旨みに、はっきりした甘み。合わせたら、どうなるのか。
しかも、選ぶのは1種類ずつとは限りません。それぞれを、何種類でも、どんな割合でも。
×
三種類の豆に、二種類の麦の麹。豆のコクが層になって、麦の香ばしさと酸味が上に乗る——たぶん、そういう方向です。
割合を10%動かせば、別の味になります。素材を一つ入れ替えれば、また別の味になります。どれも、まだ誰も名前をつけていません。うまくいくかも分かりません。けれど、しくみの上では成り立ちます。
新しい味わいは、
新しい食文化になりえます。
日本が千年かけて育ててきた麹という技術を、世界中の食材と出会わせたい。それが、Hackohというブランドの目的の一つです。
05 ところが
世界のたんぱく源と、麹にできる素材。そこに割合まで加われば、一つずつ試していけるような数ではありません。一生かけても終わりません。
しかも、適当に組み合わせれば
いい、というものでもありません。
発酵と腐敗は、紙一重です。塩が足りなければ、麹の酵素より先に雑菌が動きます。甘くしたくて麹を増やし、塩を控えれば、その境目に近づいていきます。
日本の伝統的な味噌は地域ごとに配合が違いますが、ある帯からは決して外れていません。先人が、その境目を経験で知っていたからです。知らないまま組み合わせを動かすのは、その帯から出ていくということでもあります。しかも従来のつくり方では、麹を増やすと塩も一緒に増えて塩辛くなります。
帯の中が、発酵の側です。赤い線が従来のつくり方で、麹を増やすほど塩分が上がり、帯から出てしまいます。二本が重なるのはたった一点だけ。従来のキットは、その一点のためにつくられていました。
だから、どのように組み合わせても
「発酵」の側に留まるように、
考えました。
レシピを増やすのではなく、材料のほうを設計する。そうすれば、作り手は境目を気にしなくてよくなります。
06 だから
塩と水を、たんぱく質のペースト側に閉じ込める。そしてすべてのペーストを、同じ重さ・同じ塩分・同じ水分に揃える。麹も、同じ重さ・同じ水分に揃える。
すると、中身が何であっても同じ「1個」になります。ツナも生ハムも、大豆のペーストとそっくり差し替えられる。麹を足せば塩は自動的に薄まるので、計算も補正も要りません。範囲内であれば、どう組んでも危険な配合にはなりません。

難しい計算はこちらで引き受けます。作り手はインスピレーションで組めばいい。Hackohクラフトという仕組みです。
それが、これです。
たんぱく質いくつでも選べます
麹いくつでも選べます
生ハム×ライ麦麹
まだ、名前がありません合わさると、どうなるか。まだ誰も知りません。
ここに並べているのは、たんぱく源のごく一部です。まだ麹と組み合わせたことのないたんぱく質は、これよりずっとたくさんあります。味の予想は、素材の成分と酵素の働きから導いた見当です。
07 もう一つの壁
ツナと蕎麦麹を仕込んで、何日待てばいいのか。前例がないので、経験では分かりません。自由に組み合わせられるようにすると、必ずここでつまずきます。これも、パーツを規格化したこと自体が解いてくれました。
ペーストにたんぱく質がどれだけあるか。麹に、それを切る力がどれだけあるか。パーツの数だけ測れば済みます。
どう積んでも、切られる量と切る力の合計はすぐ出ます。組み合わせが何万通りあっても、測り直す必要はありません。
切る力に対して切られる量が多ければ、時間がかかる。少なければ早い。仕込む前に、目安が出せます。
パーツを規格化すると、材料だけでなく情報も足し算できるようになる。ここが、この仕組みのいちばん面白いところかもしれません。
08 根拠
日本の伝統的な味噌10種を、麹の割合と塩分で並べると一本の曲線に乗ります。その形は、「塩を固定して、麹で薄める」系が数学的に必ず生む形でした。地域ごとにばらばらに生まれた配合が、同じきまりに従っていた。私たちは、その物理を袋の中に作り直しただけです。
ツナやアボカドでは、すでに何度も試作を重ねています。うまくいったものも、そうでないものもあります。素材ごとに適した塩加減と熟成のしかたを、一つずつ確かめています。
パーツごとの酵素の力価、たんぱく質の量、アミノ酸の分析。山口県産業技術センターと組んで進めています。味の予測は「たぶん」ではなく、測った数字から出すことを目指しています。
日本の麹菌は、毒をつくる菌と同じ先祖から、千年をかけて毒を持たない菌に育てられました。国菌に指定されているのは、世界でこの菌だけです。その菌が出会ってきたのは、この島にあった大豆と米と麦でした。世界中の食材とは、まだほとんど出会っていません。
出会わせるところまでは、
私たちがやります。
どれとどれを出会わせるかは、つくる人が決めてください。まだ誰も食べたことのない旨みは、たぶんその先にあります。