発酵の広がり — 02
世界の発酵食品は、4つの型に分けられます
麹型・乳酸型・酵母型・細菌型
読了目安 約9分
発酵食品の本を開くと、たいてい国ごとの一覧が出てきます。日本の味噌と納豆、韓国のキムチ、ドイツのザワークラウト、インドネシアのテンペ。写真を眺めるのは楽しいのですが、読み終えても「で、味噌と何が同じなんだろう」は分からないまま、ということがよくあります。
国で並べても、あまり見えてこない
国境は、微生物にとっては何の意味も持ちません。菌が見ているのは、そこに糖があるか、塩がどれだけ効いているか、酸素があるか、温度が何度か。それだけです。並べ替えの軸を地理から「誰が主役か」へ移してみると、風景がずいぶん変わります。
主役を知るには、4つ問えば足ります。何を分解しているのか。その酵素は誰が出すのか(カビか、細菌か、酵母か、原料自身か、外から加えるのか)。何で望まない菌を締め出しているのか(塩か、酸か、アルコールか)。そして、余った代謝産物が何の香りになるのか。この4つで、どの発酵食品も同じ表に並びます。
並べ直すと、地理的にはうんと遠い食品が同じ列に入り、隣同士の食品が別の列に分かれます。日本の味噌と韓国のテンジャンは見た目も使い方も似ていますが、2番目の答えが違います。日本の納豆と西アフリカのダワダワは、食卓の距離ではいちばん遠いのに、4つの答えがほとんど同じです。

型1:麹型——カビに道具を作らせる
麹型の特徴は、二段構えになっていることです。まず糸状菌(カビ)に材料の上で育ってもらって、分解酵素だけを作らせる。その酵素で原料を切り、出てきた糖やアミノ酸を次の微生物に渡します。分解の担当と、発酵の担当が分かれているわけです。
味噌、醤油、日本酒、味醂、甘酒。中国の豆豉の一部もここに入ります。麹菌(Aspergillus oryzae)が製麹の段階で酵素を溜め込んで、仕込んだあとは酵素だけが働く——きほん第1章で見た構造そのものです。
韓国のテンジャンは「韓国の味噌」と紹介されますが、実は一段目の入り口が違います。伝統的なテンジャンは、麹を接種しません。煮た大豆を固めたメジュを吊るして、まわりにいる微生物が着くのを待ちます。初期は表層で枯草菌(Bacillus)とケカビ(Mucor)が優勢になり、進むにつれてコウジカビ属(Aspergillus)が主なカビになっていきます。
テンペも糸状菌を使いますが、狙っているところが違います。テンペ菌(Rhizopus microsporus var. oligosporus)は30℃前後で24〜48時間、菌糸を伸ばして大豆を白い板に結着させます。酵素を別の工程に渡すのではなく、菌糸そのものが建材になるんです。発酵時間が桁で短いのは、酵素を備蓄しておく必要がないからです。
麹型のなかでも、日本酒はちょっと特殊です。麹の酵素がデンプンを糖に切る反応と、酵母がその糖をアルコールに変える反応が、同じ容器で同時に進みます(並行複発酵)。工程を分けないので糖が溜まりきらず、高いアルコール濃度まで到達できます。
型2:乳酸型——酸で場を占める
乳酸型では、乳酸菌が糖を乳酸に変えて、pHを下げます。下がったpHそのものが、他の菌にとっての締め出しになります。きほん第4章で「四枚の壁」の二枚目として出てきた酸が、こちらでは主役です。キムチ、ザワークラウト、ぬか漬け、ヨーグルト、サワードウ、ふなずし。素材も地域もばらばらですが、骨格は同じです。
ザワークラウトは、この型の教科書のような存在です。細断したキャベツに、キャベツの重量に対して約2%の食塩を加えると、まず塩に強い Leuconostoc mesenteroides が始めます。次に Lactobacillus brevis、最後に酸にいちばん強い Lb. plantarum が優勢になって、最終的な酸度を作ります。どこまで酸っぱくなるかは温度で決まり、18℃なら約20日で総酸度1.7〜2.3%、32℃なら8〜10日で同じところに届きます。
ここがおもしろいところで、誰も順番を指示していません。前に来た菌が環境を変えて、自分が住みにくくして、次に席を渡している。きほん第6章で味噌について書いた交代と、同じことが起きています。
キムチも同じ遷移をたどりますが、条件が違います。食塩は約3%、温度は20℃を超えるより10℃程度が好まれます。食べ頃の目安は乳酸0.4〜0.8%、pH 4.2〜4.5で、それ以上酸っぱくなると受け入れられなくなります。
味噌にも乳酸菌はいます。ただ、主役ではありません。働けるのは高い塩分に耐えられる一部の乳酸菌にほぼ限られますし、酸の下がり方もキムチほどではありません。味噌では塩が主役で、酸は補助にまわっています。
型3:酵母型——糖をアルコールに変える
酵母型は、酵母が糖を食べて、アルコールと二酸化炭素を出す型です。ワイン、ビール、パン。ワインはぶどうに最初から糖があるので、酵母にそのまま渡せます。
ビールはそうはいきません。麦のデンプンは酵母には大きすぎるので、先に糖まで切っておく必要があります。その仕事を、ビールでは発芽させた麦自身の酵素にやってもらいます。麦芽ですね。糖化してから酵母に渡すという発想は麹型と同じで、違うのは糖化を担うのがカビか、穀物自身かという一点だけです。
パンは、同じ反応の別の出口を使っています。酒ではアルコールを取り、パンでは二酸化炭素を取る。酵母が出したガスがグルテンの膜に捕まって生地がふくらみ、アルコールは焼成でほとんど飛んでいきます。
コンブチャは、酵母型と酢酸型の複合です。SCOBY と呼ばれる液面の白い塊は、キノコではありません。酢酸菌が作るセルロースの膜に、酵母と酢酸菌が住み込んだ集合体です。酵母がショ糖を単糖に割り、酢酸菌がその単糖と、酵母が出したエタノールを酸に変えていきます。
ですからコンブチャは、必ずアルコールを経由します。ゼロなのではなく、作ってからその場で消費している。開けた容器で14日置き、そのあと密閉して10日置いた実験では、本来のコンブチャの菌叢で増えたエタノールは1.0 g/L ほど(およそ0.13 vol%)でした。菌の顔ぶれを人工的に単純にした組み合わせだと、密閉したあいだに最大で4.3 g/L(およそ0.54 vol%)増えています。住人がそろっているほど、出たアルコールはその場で使われていくようです。
健康効果のほうは、語られる量にくらべると、確かめられたことがまだ少ないままです。2024年の系統的レビューが2018〜2023年の6年から拾えたヒト試験は、4件でした。参加者は11人から42人で、12人で始めて解析に残ったのが7人という試験もあります。期間は食後1回の測定から、長くても4週間で、結果も一致していません。「効かない」のではなく、「まだ何とも言えない」段階です。
型4:細菌型——枯草菌と、魚醤という例外
細菌型は、細菌が主役の型です。代表は納豆で、枯草菌(Bacillus subtilis)が無塩・短時間で一気に片をつけます。他の型と決定的に違うのはpHの向きで、乳酸型が酸性へ振れるのに対して、納豆はアルカリ側へ振れます。
同じ型は、各地にあります。韓国のチョングッチャン(およそ40℃で2〜3日)、ネパールやインド北東部のキネマ、タイのトゥアナオ、西アフリカのダワダワ。似ているのは偶然ではなくて、近い菌が近い基質で同じことをしているからです。
魚醤は、この分類から半分はみ出します。ナンプラー、しょっつる、古代ローマのガルム。ここで主に切っているのは、微生物が出した酵素ではなく、魚自身がもともと持っていた消化酵素です(自己消化)。「発酵とは微生物が分解すること」という枠の外へ、半分だけ足を出しているわけです。
とはいえ、塩が高いから中はほぼ無菌、というわけでもありません。市販のサバ塩辛からは、食塩15%でも生きる細菌が高い頻度で分離されていて、その大半は Tetragenococcus halophilus と推定されています。味噌と醤油の熟成を担うのと、同じ種です。

「原理は同じ」と言えるところ、言えないところ
ここまで並べてみると、「原理は同じ」という言い方がどこまで正しいのかが見えてきます。同じと言えるのは2点です。大きい分子を小さく切って、味と香りの材料を作っていること。そして、環境をわざと偏らせて、望まない菌が増えられないようにしていること。
同じと言えないのは、その先です。分解酵素を誰が出すのかが違います(カビ、細菌、酵母、原料自身、あるいは外から加えるレンネット)。必要な酸素の向きも違います。乳酸菌は酸素がないほうがよく、酢酸菌は酸素がなければ働けず、酵母はどちらでもいけて、カビは酸素が要ります。ですから「発酵とは空気を遮断すること」と覚えてしまうと、コンブチャが説明できなくなります。
そして、いちばん実務に効いてくる違いが、締め出しの手段です。味噌を守っているのは、塩と、それが押し下げた水分活性(食品のなかで微生物が使える水の割合)です。味噌の水分活性は、型によって高い低いはありますが、おおむね0.7台に収まります。多くの食中毒菌はもっと湿ったところでないと増えられず、たとえばボツリヌス菌は0.94を下回ると増殖も毒素の産生もできません。一方、キムチとザワークラウトを守っているのは主に酸、酒はアルコール、テンペは加熱と酸性化です。
ただし、塩と水分活性だけで全部を締め出せるわけでもありません。黄色ブドウ球菌は食塩16〜18%でも増えますし、条件がそろえば食塩10%でもエンテロトキシンという毒素を作ります。仕込むときに手と道具を清潔にしておくと安心なのは、こういう菌がいるからです。
テンペの浸漬水を酢などで酸性にするのも、風味のための操作ではありません。ボンクレキン酸という猛毒を作る細菌(Burkholderia gladioli pv. cocovenenans)を抑えるための、安全の工程です。味の工程だと思って飛ばしてしまうと、守ってくれているものが外れます。
4つの型は、覚えるための箱ではありません。初めて見る発酵食品を前にしたときの、問いの並びです。何を切っているのか。誰が切っているのか。何で締め出しているのか。余った代謝産物は何になるのか。この順に問えば、名前も知らない食品の構造が、だいたい読めます。味噌を一度仕込んだことのある人は、その4つをもう手に持っています。
